ニチバン様 粘着テープへのADAP導入事例

ADAPは製造部門のみならず全社的な風土改革のきっかけにもなりました

事業統括本部(左から)富田氏、工藤氏、小西氏、本部長 鈴木氏、シニアマネージャー 田口氏 ※写真手前はセロテープアートの「セロたま .3」(瀬畑亮氏作)

セロテープ®(登録商標)でおなじみのニチバン株式会社(本社東京)様に、国内3工場の生産管理システムにADAP(エイダップ)を導入していただきました。本社事業統括本部および最初の導入先である同社埼玉工場の皆様に、ADAP選定の理由、導入において困難だった点、導入して変わったことなどを伺いました。

ニチバン株式会社の紹介

ニチバン

ニチバン株式会社(以下ニチバン)は、独自の粘着・接着技術をベースに、医療・ヘルスケア、オフィス・ホーム、産業向け等、多種多様な製品づくりを行っている会社です。セロテープ®はほとんどが植物由来の原材料でできており、自然に還る環境にやさしい製品です。その他にも様々な環境配慮製品の提供や製造上の高度な環境配慮を行い、環境に貢献する企業を目指しています。弊社は2018年に創業100周年を迎えます。2011年から【NB100】と銘打ち、「企業品質向上」「基盤効率化・安定化」「成長追求」を戦略フレームとした中長期計画を推進しています。

ADAP導入の背景~効率的生産と欠品なき在庫削減を目指して

― この度の生産管理システム導入も【NB100】の一環でしょうか

新生産管理システム構築プロジェクトが始まったのは【NB100】の少し前です。国内3工場(埼玉、安城、大阪)が抱える課題解決のためには、 業務プロセスを含めたシステム刷新の必要がありました。 そこで、効率的生産と欠品を起こさない在庫削減を目指しスタートしました。

2008年から調査を開始、導入システムをADAPに決定したのが2010年春です。本社から近い埼玉工場を皮切りに、順次、安城工場、大阪工場へ導入することにしました。

埼玉工場のシステム導入開始の2011年3月11日、東日本大震災発生の影響により現場メンバーが製造に追われ、プロジェクトの遅延がありましたが、2012年夏頃にはほぼ安定稼働に入りました。今では在庫をしっかりとコントロールできるようになり、原材料・中間品の在庫は相当削減されています。課題だった製品在庫の削減はこれからです。今は、在庫量に対して「この量は多すぎる」「この量であればリスクにはならない」ということが見えるようになってきた段階です。

そのことを現場メンバー自ら把握し、考えるようになったことが大きな成果です。

導入前の課題~生産管理が工場ごとに属人化されていた

生産管理システムはこれまでも各工場に導入されていましたが、計画管理機能に関してはマスターデータ(※)もあまりメンテナンスされておらず、ほとんど使われていませんでした。生産計画は総務管理課の担当者が、各自引き継いだエクセルを独自に育てたものを駆使して立案していて、担当者本人以外にはわからないくらいに個別化していました。

また過去にコンサルタントの先生を招いてかんばん方式等の指導を受けていましたが、アイテム単位での販売実績と予算の乖離が大きい中ではうまく使いこなすことができていませんでした。そこで、販売のばらつきを考慮して最大販売予測を行って生産管理につなげられないか試行錯誤していました。

社内で開発した「生産依頼システム」を大幅に改造して最大販売予測をまかなうことのできる月次生産量を計算できるようにしたのですが、「予め生産の日程計画を決めるなんてできない」「製品工程の日程だけ決めても、原材料・仕掛品の日程を合わせるのは難しい」と、工場にはなかなか受け容れられませんでした。加えて、季節的な需要変動もあり、繁忙期のためのつくりだめへの対応も課題となりました。

ニチバンの当初抱えていた課題

  • 販売予測のシステムを活用しようとしたが、既存生産管理システムのMRPは単月のみの計算しか行うことができなかった。このため、リードタイムの長い原材料の調達や仕掛品の生産を紐付けた計画管理ができなかった
  • 計画作業に時間がかかり、先月の予実差異を来月の計画で修正するなど、計画サイクルが長くフレキシブルな需要に  対応できていなかった
  • 急な欠品等への対応のための計画変更は、製造設備の稼働予定や原材料・仕掛品の計画も考慮しなければならず、大き  な負荷になっていた
  • 計画担当者の定年退職や移動に伴う計画立案作業の引継ぎが困難になってきていた

我々が目指す計画管理が実現できるのはADAPだけだった

― システム選定はどのようにされましたか

これらの課題を解決するべく、生産管理の手法や、生産管理システムの調査を行う中、APS(※Advanced Planning and Scheduling 先進的計画スケジューリング)というシステムの存在を知り、その活用の検討を始めました。

構造計画研究所のADAPを初めて知ったのは「ものづくり見える化展」という展示会でした。他のAPS系の計画システムのパッケージもいくつか説明会などに参加して調べていたのですが、他の分単位で緻密に計画を組んで行く仕掛けに対し、ADAPの日次単位で計画して日の中の順番は現場に任せるというコンセプトの"ゆるさ"が弊社には合っているような気がしました。

APS系のシステムを比較検討して行く中で、我々の課題の中心である「販売予測から在庫が無くなるまでに製品の生産計画を立てる」ということが意外に難しいということが分かったのです。ほとんどのAPSパッケージは、与えられた納期に間に合うように計画を立てるというようできており、生産管理システムなどの上位システムが基本的な生産計画を立てて、APSが負荷を考慮して日程計画をつくるという運用になるというのです。

それでは我々がやりたいことの根本が崩れてしまいますので、見込み生産品には決まった生産オーダーは無いため、現在の在庫と販売予測から生産オーダーを自動生成する機能が必要であることを根気よく説明しました。その結果、ADAPだけが月次の販売見込から生産オーダーを生成する機能を持っていることがわかりました。

また、繁忙期のための前倒し生産についても、数千アイテムある中では他のシステムは一度に3ヶ月程度分しか自動計画できなかったのに対し、ADAPは1年を大きく上回る18ヶ月分でもほとんど問題なく実行することできるという自動計画のロジックの軽さも決め手となり、ADAPを選定しました。

実は、もうひとつ決め手となったものは、構造計画研究所には一緒に理想の生産管理システムをつくっていただけるというパートナーシップを感じたことです。要望の本質を一緒に掘り下げて検討しながら、必要かつ十分なシステムを構築しようという姿勢を感じました。巨大な生産管理システムとの組み合わせを提案されるより、安心感がありました。

ニチバンの目指したシステム

  • 販売予測や販売予算などの販売見込から自動的に欠品しそうな日を割り出し、その日に間に合うように製造の負荷も考慮して生産日程計画をつくる支援を行う
  • 製品の生産日程に間に合うように原材料の調達や仕掛品の生産計画を組み込む
  • 中長期的な計画も同時に立案し、繁忙期のつくりだめのための前倒し生産や、リードタイムの長い原材料の調達も販売見込に紐付けて計画管理する

「生産管理は工場自身で行うべき」という方針の元、導入プロジェクトがスタート

― 導入プロジェクトはどのように進んだのでしょうか

2010年にシステム導入を含む生産管理プロセスの改革として経営層の承認を得て、本社から田口と小西の2名、3工場から各3名ずつを選出した「生産管理改革ワーキングチーム」を発足し、打ち合わせを重ねました。最初は生産管理改革の必要性自体に疑問の声も多く、目的・目標を共有することから始めました。

埼玉工場でシステム導入のキックオフを行ったのが、翌年の2011年の3月11日でした。あの東日本大震災の当日で、構造計画研究所のプロジェクトメンバーと工場見学をしていたときに大きな揺れに見舞われ、避難の列に加わったことを今でも鮮明に思い出すことができます。

東日本大震災の影響により、現場の埼玉工場は計画停電や材料の遅延などで生産に追われ、8月までは工場の稼働自体に影響がでるほどでした。その期間は本社側のメンバーだけでマスター作成などをこなし、毎日工場に出向いては直接現場担当者に質問し、準備をしてきました。

埼玉工場での導入スタートから半年後の2011年秋、工場も落ち着き、現場メンバーが加わって本格的なマスター構築が始まりました。つくっては壊しつくっては壊し、有効に働くと思った設定が、かえって悪い結果を招き設定変更を加えるなどの試行錯誤を繰り返し、2012年夏にようやく使えるマスターデータになりました。

― 進めるなかでご苦労された点があれば教えてください

埼玉工場では、「現場が、自ら考え、自ら行動する」という考えの元、様々な改革を開始しており、生産計画についても現場で立案するという挑戦を始めていたところでした。そのためADAPの導入も、現場主体で行いました。現場メンバーを主体としたマスター構築で苦労したのは"マスターの設定"と"メンバーの時間捻出"です。

「現場の知恵を注入しないと精度のいいシステムにならない」と考えていましたので、現場の持っているノウハウをいかにマスターに落とし込むかが一番のポイントでした。

以前のシステムはマスターのメンテナンスをあまり行えておらず、実際の製造能力を反映できていませんでした。ADAPのマスターでは、きれいなメンテナンスを行っていくために、最初の設定を実測と合わせこむところには非常に力を入れましたが、苦労しました。

メンバーにとっては通常の製造スケジュールをこなしながらの新システム構築プロジェクトへの参加です。製造の合間や通常業務後の時間を使って、マスター整備や打ち合わせを行いましたが、普段は現場で製造を行っている担当者が時間的な制限もある中、システムに設定を加えていくのは非常に困難なことでした。その作業は見ていて心が痛むこともあったほどです。携わるメンバーのモチベーションをどうやって維持していくか、いかに楽しく作業をしてもらうかに苦心しました。

最初は、「ADAPは大変です」「うまく機能しない」など不満が多々ありましたが、当然だと思いました。ただ、うまく機能しないのはマスターが原因で、それを設定したのは自分たちであるということに、あるとき気づいたはずなのです。ADAPが使える、使えないということは自分たち次第だということに自ら気づいてくれた、そこが成否の分岐点であり、いちばん有り難かったところです。

― うまく機能しない原因に気がついたのはいつ頃ですか

自分たちの方法に問題があるのではないかと気づいたのは半年くらい経った頃です。製造アイテム数が多いため、マスターの量が膨大で、あっちもこっちも手を付けないとならない状況の中、「どうやれば動くのか」「何をやればいいのか」とそればかり考えてしまい、いらだつこともありました。

なぜこのようなことになるのだろうと、こんがらがった糸をほどくように1つずつ確認する中で、自身が設定したマスターが悪かったことに気付きました。ADAPに見透かされたような思いがすると同時に、ADAPへの信頼感が増して、これを活かさなければと思いました。

導入効果~「見える化」による工場現場の変化と他部署への波及効果

― ADAPの導入効果について詳しくお聞かせください

1. 工場の意識変化による現場改革

ADAPは一目で前後のつながりが見えるシステムです。自分の製造担当だけでなく、前工程・後工程のつながりまでもが見えるようになり、指示された数量だけつくればいいという状態から、今の製造がどの受注と結びついているかを理解し、考えて製造するようになりました。

欠品防止についてもかなりの効果がありました。 営業は生産のタイミングとは関係なくお客様から注文を取ってきますが、工場はある程度の予測で製造しますから、予測を超えて売れると欠品を起こします。ADAP導入によりつながりが「見える化」されたことで、現場でも販売に対する関心が上がり、販売実績数を追うようになりました。

2. 社内の風土改革

現在では工場から営業部門や本部に対し様々な提案がされ、全社的な意識改革に繋がっています。見える化により工場の意識が変わり、製造数だけではなく売上にも意識を配るようになりました。売上が上がっていると、「これは通常のことなのか。イレギュラーなことなのか」と質問がきます。

逆に製造計画通りに売上が上がらない場合は、「今後の売上見込情報がほしい。在庫になりそうであれば別のものを製造したい」というように、現場が主体的な製造姿勢に変化し、他部門への情報共有がされるようになりました。ADAPをきっかけに本社と工場の理解が深まり、永年の懸案だった現場改革が進んでいます。

これまで本社側で小ロット生産が良いと言っても、現場からの理解を得ることが難しかったのですが、ADAPを自ら動かすようになり、「ここでこんなに大量に造ってしまっては、本当に造らなければならないものが造れない」「小ロットがいいというのはそういうことなのか」と理解してもらえるようになりました。今では現場から「欠品せずにこれだけで回せる」という数量を提示してもらえるため、それに対して「この製品の在庫を増やして欲しい」などと、経営的な視点から意見を出して、コントロールできるようになりました。

また、実際に体験して自分で感じることで、別のアイディアもわいてきます。工場のメンバーに聞きますと、生産管理だけではなく品質に関わるところも考えるようになってきたそうです。

「自分の工程できちんと製造しなければならない」という意識に変わってきたようで、以前は少なかった工程間のコミュニケーションがADAPによって見えてきたようです。

今後の期待〜会社が進みたい方向へ向かうプロセスを実現するためのシステム

埼玉工場の皆さん (左から)柿沼誠氏、マネージャー 小峰只行氏、工場長 田中正志氏、高橋宏二氏、関根信之氏

― 今後の計画についてお聞かせください

今ではデータが貯まりつつあり、様々な点が見える化してきています。今後については、例えばAという改善を加えたら原価はどう動くか。B改善でのインパクトはどうかなど、原価面での可視化も行いたいと考えています。

直接原価が計算できるところまでは開発していただいたので、今後は間接費の配賦でどう変わるかを含めた予測も行うなど、様々なシミュレーションが簡単に行えるようにしたいです。さらには物流にもADAPをつなげていく予定です。

― ADAP導入の成功要因はどこにあったと感じますか

ひっぱる力がずっと続いたことではないでしょうか。やろうと言い始めた人が5年後も同じように言いつづけ行動しました。

また、工場側でも様々な活動から学びを得ていたことで現場改革への基礎ができていたと思います。ADAP導入以前より行っていた、現場管理能力の向上のために5S活動、かんばん方式や見える化の取り組みを通じて、様々な問題点が意識されるようになっていました。

「これからは現場が中心になって生産を行う」 「現場主体でもっと考える」 「よりお客さんに近いところでものづくりをしていこう」という方針の徹底が過渡期で、具体的にどうしたらいいか迷っている時にタイミング良くADAPの導入が決まりました。ADAPで、見える化が一気に進み、問題点の因果関係が見えるようになり、現場の理解が進みました。

確かに導入時は面倒くさいと思ったはずです。会社の方針とは言え、相互に信頼関係がなかったら、ここまでのことはできなかったと感じています。導入をしようとする本社側と工場側との信頼関係を築けたことが導入できた一番の要因です。

工場にADAPを導入し、なんとかしようと一生懸命になってくれている人がいて、その一生懸命さが周りを動かしました。まだ現場メンバーの半分もADAPを理解していないので、今後どう裾野を広げていくのかが次の課題です。

弊社では、ADAPをある特定の業務をサポートしてくれるツールとして考えているのではなく、会社が進みたい方向へ向かうプロセスを実現するためのシステムとして考えています。システム自体が会社と一緒に育っているのです。

1つの目標を達成すると次の目標が見えてきて、4~5年後はまたその時点での目標を追いかけてADAPは育ち続けていくだろうと思います。 現在も目標の1つである、物流をはじめとしたグループ会社でもADAPの導入を進めていますので、4~5年はあっという間です。構造計画研究所には、これからもよろしくお願いいたします。

取材日:2013年9月
株式会社ニチバンについて
設立:1918年1月
本社所在地:東京都文京区関口
ホームページ:https://www.nichiban.co.jp/