㈱サンリッツ様 偏光板製造へのADAP導入事例 

「材料調達から出荷まで、皆が全体を見渡せる生産管理システム『ADAP』の導入で、計画立案リードタイムを10日以上短縮、納期遵守率100%を達成しました」

株式会社サンリッツ (左から) 生産部 原価管理グループ担当部長 福井利彦氏、執行役員 生産部 部長 熊澤京一氏

液晶ディスプレイに欠かせない偏光板のパイオニアであるサンリッツは、2017年、構造計画研究所(KKE)が提供するAdvanced Planning and Scheduling(APS)方式の生産管理システム「ADAP」の運用を開始した。納期の遅れや売れ残りの発生、さらには関係部署への負荷の増大に頭を悩ませていた同社に、どんな変化をもたらしたのか。執行役員で生産部部長の熊澤京一氏、同部原価管理グループ担当部長の福井利彦氏にお話をうかがった。

激化する市場競争と属人的な仕組みの限界

― 「ADAP」導入を決めた背景には、どんな事情があったのでしょうか?

当社は、液晶ディスプレイの重要な要素にもなっている偏光板を生産しています。耐久性偏光板、ハイコントラスト偏光板、高視野角偏光板を世界で初めて開発するなど、この分野のパイオニアを自負しているのですが、ここ十数年は韓国、中国メーカーの追随などで、市場獲得競争は激化。偏光板を加工して造る液晶セルの海外生産比率拡大も相まって、かつての「作れば売れる」状態から、「多品種・ 短納期ニーズへの対応」が、否応なしに求められる環境になったわけです。


ところが、当社のものづくりの現場では、調達、製造、物流、加工といったサプライチェーンの各拠点担当者が、各人のやりやすい方法で、エクセルなどを活用した「負荷調整」を行っているという現実がありました。その結果、お客さまから要望があった場合の供給計画立案のリードタイム(L/T)だけで、最長2週間程度になることもあり、短納期化ニーズへの対応が大きな課題でした。
言ってみれば、業務体制が時代に合わなくなっていたのです。属人的な仕組みをベースにしていては、工夫も限界にきていました。そこで考えたのが、「材料調達から製品出荷まで、各部門、拠点の担当者の皆が全てを見ることのできるシステム構築を」というものでした。

各部門が全体を見渡しながら計画に参画、「考える」ことができるツール

― 他の生産管理システムも比較検討されたと聞いています。決め手はどこにありましたか?

他社のAPS型スケジューラは、お客さまの要求をインプットすると、いわゆる「山崩し」で、各工程の負荷をならしてなんとか工場の能力に収まるように調整する、というものがほとんどでした。それも、納期までの計画にはある程度期間の余裕を持たせておき、「あとは、現場で調整を」というものが多く、これでは抜本的な L/Tの短縮には繋がりません。また、基本的に専任の計画立案者が緻密なプランを作成するためのツールで、先ほど述べたような「皆に見える」システムではなかったのです。
一方「ADAP」は、お客さまの要求内容から、それに対応する材料調達、生産、在庫を含めたサプライチェーン全体の状況が見渡せる仕組みになっています。各部門は、それを見ながら計画に参画し、自らの部門の方針を速やかに、正確に判断することができるんですね。


また実情を踏まえて、きちんと「考える余地」を残してくれている点も重要で、例えば当社が工場を置く北陸は、冬場に道路が閉ざされたり、船が出港できなかったりということが起こり得ます。そうした様々な制約条件が生じても、それをインプットすれば、計算をシームレスに行い、自動計画の結果を見せてくれる。現状を改善できるのはこれだ、と感じました。

― とはいえ、従来のやり方を変えるのには、苦労があったのではないでしょうか?

皆大変な思いをしつつも、それまでの業務の進め方でどうにか回していましたから、現場には抵抗感もありました。そんな状態を見て、「まず、今のシステムと共存させてやってみませんか」という KKEのアドバイスが、結果的に良い方向に導いてくれました。従来使ってきたエクセルに「ADAP」を繋ぎ、データをタイムリーに反映させることで、「急に新システムに変わる」という心理的ハードルが一気に下がりました。現在でも、エクセルからの入出力を行なっています。
一方、多品種化の進展で、エクセルシートが長大化して一覧の役目を果たさなくなった部署では、エクセルへの入力ではなく、「ADAP」へ直接アクセスし情報整理をする方法に改めたことで、業務効率化に大きな効果を上げました。ここでも一覧化して見たいデータを「ADAP」からエクセルに書き出すことは可能です。そうした柔軟性、使い勝手の良さも、このシステムの強みだと感じます。

(左から)営業部 梅澤一美氏・蛯谷肇氏・石川裕亮氏 

▲現場ではADAP導入への抵抗感はあったが、さまざまな工夫を通して定着を図るうちに、次第に意識にも変化が現れたという。

「働き方改革」の推進にも一役買う

― 熊澤さんは、導入の際に「皆が本気になる必要がある」とおっしゃったそうですね。

長く慣れ親しんできた仕組みに愛着があるのは、誰しも当然です。でも、それが時代に合わなくなり、お客さまにご迷惑をかけたり、ましてや「顧客離れ」を起こしてしまったりといった事態は絶対に避けなくてはいけません。本システムの導入は、まさに当社の生き残り戦略そのものだった――そういう意味で「本気」という言葉を使いました。
ただし、「ADAP」も万能ではありません。どう使いこなしていくのかが大事で、エクセルと繋げた運用も、そうした工夫の一つに他ならないのです。おかげさまで、今では部署ごとにシステムの一層の改善に向けた議論が行われるような方向に、現場の意識は変わりました。

― あらためて、ここまでの具体的な成果と今後の課題をお聞かせください。

従来の計画立案は、各部署で目の前の作業を確実にやり切って次の工程に渡していくというやり方でしたが、今はお客さまの要望が来た瞬間に、皆が1つのテーブルに集まって、同時に入力していくというイメージです。計画立案L/Tに2週間を要していたものが、最速翌日に出来上がるほど、大幅な短縮を実現できました。
そうやって工程が"見える化"されたことで、お客さまに「現在、生産部門の最終調整を行っており、〇日までには正確な回答ができると思います」といった形の提案ができるのも、当社に対する信頼性を高めるうえで大いに役立っています。また、多品種化に十分対応できず、納期遵守率が50%程度で推移していたお客様に対しても、迅速な納期回答に加え、遵守率100%を維持できるようになりました。


「各担当者が、独自に負荷調整をやる」仕組みの中で、ともすれば「納期の遅れは、あそこのせいだ」といった担当者間の摩擦が生じることもありました。しかし、全体の情報、特に「お客さまが何を要求されているのか」を皆が共有するようになったことで、そうした問題も改善されました。
もう一つ忘れてはならないのが、当社の「働き方改革」への貢献です。述べてきたような環境変化になんとか対応しようと、担当者の負担も極限に近くなっていました。「ADAP」を武器にした業務改革の推進によって、現場の残業も大きく削減することができたのです。「ADAP」の導入は、当初お客さまに近い工程から始めましたが、今後は川上の資材調達までカバーしたシステム構築を目指したいと考えています。サプライチェーン全体がある程度コントロールできるようになった段階で、全社的に具体化を進めている経営資源計画(ERP)と連携を図っていくのが次の課題になるでしょう。
当社にマッチしたシステムを作り上げていくうえで、KKEのアドバイス、力添えが不可欠だったことは、論を待ちません。これからも、適切なサポートをお願いしたいと思っています。


取材日:2018年4月
株式会社サンリッツについて
設立:1939年
本社所在地:富山県下新川郡入善町
ホームページ:https://www.sanritz-corp.co.jp/ 別ウインドウが開きます